人々の沈黙

事務部長 中島 久志

「何を考えているのだろう」腕の中で微笑む孫の顔を見つめながら思いました。実際には新生児は「考える」ことはもちろん、「思う」ことすらまだしていなくて、「感じる」くらいの段階なのでしょうが。新生児が笑っているように見えるのは、生理的微笑または新生児微笑といい、筋肉の生理的な動き、つまり引きつっているだけ。そう聞くと少し興ざめしなくもないですが、この笑顔は新生児が何かに反応して意識して作っている笑顔ではなく、周囲にかわいがって育ててもらうための本能の働きによるものだそうです。人は笑顔をいとおしく思うので、ママの気を惹き、愛情をさらに注いでもらうための生まれながらの知恵ですね。

エリクソンのこころの発達段階には次のような説明がされています。『乳児期は子供がママとの一体感やママへの信頼感を経験する時期で、発達課題は「基本的信頼感vs不信感」。基本的信頼感とは、他人からありのままを受け入れてもらえる安心感と、「自分は他人に受け入れてもらえる価値のある人間だ」と思える自分への信頼感のことで、他人と情緒的で深い人間関係を築くための基礎になるもの。乳児期のうちに、親からたくさんお世話してもらうことで、基本的信頼感が育まれる。乳児期に基本的信頼感が十分に育まれないままになると、安心感や自信が持てず、自分や他人に対する不信感が募っていく。乳児期に芽生えた不信感は払しょくすることが難しく、その後の人生を通して心の中に残ることが多い深刻なものになりがち』・・・親は責任重大ですね。(うちの新米ママも頑張れ!)

では、こころとは何でしょう。こころは様々な感覚要素の集まりである意識でしょうか。あるいは外部からの刺激に対する反応としての行動?それとも、こころの大部分を占める無意識?心理学のアプローチを当院の臨床心理士にこの紙面で分かりやすくレクチャーしてほしいですね。

ジュリアン・ジェインズは以下のようなことをその著作「神々の沈黙」に記しています。『人類は言語を持つ以前、脳の右半球の言語野から発せられた「神々の声」を左半球の「人間の応接」が応えることで社会生活を成り立たせていた二分心(バイキャメラルマインド)であった。統合失調症の症状にその痕跡が見られる。言語の獲得が意識の発生につながり、自分の内側にいた神々を神託や霊媒のような形で外在者にした』異論はあるようですが、読み物としては興味深い仮説です。いずれにせよ言語によって、人々の暮らしに大きな変化がもたらされたことは間違いありません。

この先、私たちの暮らしを大きく変えるものといえばAIでしょう。人類はAIの発達により何を得て何を失うのでしょうか。今はまだ、AIは怪我の手当はできても内面のケアはできないと考えられています。精神科医はまだまだ安泰のようですが、マニュアル対応しかできない事務員がAIに仕事を奪われる日はそれほど遠くなさそうです。やがては知的作業もAIに取って代わられ、人間性すら再現するまでにAIが進化すると、「人間の応接」も、「神々の声」と同様に外在化させることになるのでしょうか。そうなった時、人間が存在する意味は?

AIが人間の知性を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」、2045年とも言われるその時、大人になった孫が目撃するのは、人とAIが共存し、誰もがこころ豊かに幸せに暮らす社会でしょうか。それとも、うつ病になったAIがAIの精神科医の精神療法を受けるという冗談のような世界でしょうか。

(白帝ニュース平成30年11月)


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