令和の初めに思うこと(副院長就任のご挨拶、に代えて)

診療部長 黒川 淳一

つい先日、車を運転していると“憲法9条を守ろう!”ステッカーを貼った車が、随分なスピードで追い越して行ったのを目の当たりにしました。「もっと守るべきものが他にあるんやないかね!?」と苛立ちつつも、つまらないことで腹を立てている自分に対して、驚くというよりは呆れるというか、かなり残念な気分にさせられたのを思い出します。まだまだ修行が足りません。私はこの怒りというのがどうにも苦手で、いつまで経ってもうまく制御できません。怒り・敵意・憎悪・殺意・・・これらは一体、何なのでしょうか。

これら負の情動にまつわる表現というのは割と身近にあって、岸本佐和子の『ねにもつタイプ』(2007)や岡崎京子の『リバーズ・エッジ』(1994)などは秀逸です。表面上の付き合いの裏側にあっては内心、頭の中で相手はいつでも、いかようにでも無残にヤラレテしまう様が、むしろ清々しいまでに描かれています。こんなに才能溢れるヒトたちでも、殺意にまつわる自覚というのがあるということに触れるだけで、寧ろ安心さえしてしまいます。我々は、その空想や妄想の中において、これまで一体、何人のヒトを殺めてきたことになるのでしょうか…。罪深い話です。ただ、実際には実行しているわけではないので〔実行してしまった世界を描いたのが 大場つぐみ『DEATH NOTE』(2003)ですね〕、どこかで何かの機能が働いて、そうしないよう食い止めていることになります。

怒りという情動は、生き物である以上、その多くに備わっています。何らかのストレスを感じると、それに対処する必要に迫られます。そこから逃げ出すのか、うずくまってやり過ごすべきなのか、それとも戦うのか…。いち早く状況を把握した上で、取るべき行動内容を決断しないと生き延びる確率が下がってしまいます。かつての記憶を脳の海馬というところに溜めておき、いざというときにこれら記憶と照合して何かしら感じる(場所を扁桃体といいます)こと、これら一連の作業を担う回路のありかを大脳辺縁系といいます。ここで湧き上がった情動に適した対処(行動)に繋がるよう、例えば血圧を上げたり(自律神経を高ぶらせる)、血糖値を上げたり(内分泌系を起動)と、体の各所へ命令する機能が備わっているのです。生理学的な詳細は櫻井武『「こころ」はいかにして生まれるのか』(2018)、その起源については山極寿一『暴力はどこからきたか』(2007)に分かり易く書かれています。

裏返せば、怒れるから戦うのであり、不安に思うからいち早く危険に気付こうと努めるわけです。不愉快な情動とは、実は生存確率を高めるために必要なものであることがお分かり頂けるのではないでしょうか。生き物である以上、そういった情動とは無縁ではいられないため、何らかの方法で付き合っていくしかない、とも言えるでしょう。怒り“ナシ”にはできないのです。

では、怒りの情動とはどうやって付き合ったらいいのでしょうか。その詳細は安藤俊介『アンガーマネージメント実践講座』(2018)に譲りますが、その中で特に興味を引いたのは“~べき”思考にまつわる提案です。“~すべきこと”が相手に裏切られたから不機嫌になる・怒る、といった経験は、誰しも一度はあろうかと思います。怒りの背景に潜むものから、正義感や倫理といった、その人なりの行動規範にかかわる信念が見え隠れします。“信念”も度が過ぎるとただの独りよがりで独善になってしまいかねません。相手にとっては信じていないこと・望んでいないことを押し付けられることになるので、相手をかなりうっとおしい気分にさせてしまうでしょう。良かれと思って勧めたのに…結果、益々溝を深めてしまいます。善意(独善)が裏切られた時にこそ怒りが生じます。そして、互いの信念を譲らないが故の争いごとが、この世にはなんと多いことでしょうか。つまらないことです。一見正しいように見えますが、この信念の背景にある“~べき”思考の危険性に気が付くだけでも、ヒトは随分と折り合える余地を生むのではないかと考えたりする今日この頃です。自分の掲げる信念さえも一度は疑ってみるだけの謙虚さと度量が怒りの制御には必要、ということではないでしょうか。

OVA『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(2010)では怒りを乗り越えて成長していく主人公の姿が描かれています。信念などというシガラミを理由に、つまらない争いごとが生じないようにと、新しい時代の幕開けにおいて願わずにはいられません。
マンガ本で人格を培ってきた程度の非才浅学の身ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します。


(白帝ニュース 令和元年5月)


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